ジョン・テニエル 挿絵・風刺画
  イングランドのロンドン生まれ。当初は歴史画家の道を目指しロイヤルアカデミーで正規の美術教育を受けていたが、副収入欲しさで始めた挿絵の仕事が好評を得て、1850年に風刺画雑誌「パンチ」に迎えられる。同誌からリチャード・ドイルが抜けてその後釜としての参加であったが、たちどころに人気を得てゆき、1850年代後半にはナンバーワンの座を確立している。以降1901年まで風刺画家として活動した。挿絵の仕事も平行して続け、中でもパンチ編集者の紹介で引き受けたルイス・キャロルの童話「不思議の国のアリス(1865)」は(説明不要なほどの)最も有名な作品となっている。1893年にはヴィクトリア女王よりナイト爵位を授与されており、商業イラストレーターとしては初の栄誉であった。  
John Tenniel(1820-1914)
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「Punch」掲載の風刺画(1862)。アメリカ大統領リンカーンの顔をしたアライグマが、イギリス人によって木の上に追い立てられている。この風刺画が、(下に掲載の)「不思議の国のアリス」の 木の上のチェシャ猫をアリスが見上げる絵の原形になったと言われている。


キャロル「不思議の国のアリス」(1865)より

テニエルは勿論のことリーチやドイル、シェパードといった様々な画家が描いた「パンチ」の風刺画は、現在でも「パンチ」公式サイトで見ることができます。当然ながら当時のイギリスの社会情勢や風俗などが題材になっているので、現代の日本人が見ても意味が分からなくて面白くないんじゃないの…と思ってしまいがちですが。子供の頃から何百回とアリスの挿絵を眺めてきた身としては、分からないはずの風刺画にどういうわけだか妙な親近感を覚え、分からないなりにも魅力的に感じてしまうのです。それもそのはず、テニエルは「アリス」の挿絵を描くにあたって、「パンチ」の風刺画の様々なイメージを流用していたのです。その辺りの詳しい分析はマイケル・ハンチャーの「アリスとテニエル」にぎっしりと載っておりますので、テニエルが描いたアリスの挿絵が好きな方は是非読んでみて下さい。谷口博幸著「ヴィクトリア朝挿絵画家列伝」も良い参考になります。

さて本来風刺画は大人向けのものですが、テニエルのみならず19世紀の風刺画家たちは子供向けの本の挿絵もたくさん手掛けていました。ウォルター・クレイン曰く当時はまだまだ幻想的な絵を描く才能が発揮できる場が児童書に限られていたそうで、その辺りの事情も大いに関係ありそうですが、さてテニエルの場合はどうでしょうか?

キャロルとの間に軋轢を生んで挿絵の仕事に嫌気を感じたという逸話からも、テニエルの本業は飽くまで風刺画家であり最も有名な「アリスの挿絵」は結局のことろ画家本人にとっては余技でしかなかった、という解釈が一般的です。ですが、テニエルは「パンチ」の風刺画家になる前にも「イソップ寓話集」などの児童書の挿絵を描いています。

そして実際は風刺画にも童話の挿絵のごとき空想趣味が発揮された作品が多いのです。政治漫画は当然ながら著名人を滑稽に描いた多少なりともグロテスクな絵が存在するわけですが、19世紀の「パンチ」においてはそんな中に騎士やドラゴンなどの中世モチーフ、立派な洋服でめかしこんだ動物たちなどといったメルヘンチックなものが混在しています。メルヘンでちょっぴりグロテスクといえば、すなわち「アリスの挿絵」の世界そのままです。伝統に縛られたロイヤルアカデミーに失望した(失望しつつ最後まで未練があったらしいけど)テニエルにとっての「挿絵」と「風刺画」。その相互作用は非常に奥深いものに思えてきます。



ディケンズ「憑かれた男」(1848)より

原書の初版の出版元であるマクミラン社が1995?1996年に出版したフルカラー版「アリス」。テニエルによるオリジナルの挿絵にハリー・シーカーとディズ・ウォリスが彩色した大変美しい本です。表紙画像を見ても分かる通り、一部の絵には背景が丁寧に描き足されているのが興味深い。なお、テニエルのオリジナル画と違ってこの彩色版には著作権が存在するので注意。(この画像のみAmazon.co.jpの商品画像として掲載しています)日本版は岩波書店より出ています。
Alice's Adventures in Wonderland(Macmillan Children's Books)
Through the Looking-glass(Macmillan Children's Books)
不思議の国のアリス 愛蔵版(岩波書店)
鏡の国のアリス 愛蔵版(岩波書店)
不思議の国のアリス・鏡の国のアリス 愛蔵版箱入りセット(岩波書店)

画集・評伝・関連書籍
ヴィクトリア朝挿絵画家列伝 ディケンズと「パンチ」誌の周辺(図書出版社/1993)
アリスとテニエル(東京図書/1997)
※テニエルが描いたアリスの挿絵の分析。「パンチ」掲載の諷刺画も多数紹介。日本語で読めるテニエルについての資料としては最も充実した本。
もうひとつのイギリス児童文学史 「パンチ」誌とかかわった作家・画家を中心に(翰林書房/2004)
The Tenniel Illustrations to the "Alice" Books
※上記の本の原書。
Sir John Tenniel: Alice's White Knight
Sir John Tenniel: Aspects of His Work

Fanciful Victorian Initials: 1,142 Decorative Letters from Punch
※「パンチ」掲載の装飾頭文字を集めた画集。テニエル以外の画家の絵も載っていますが、「アリス」ファンが喜ぶようなユーモラスでファンタジックな絵ばかりなのでお勧め。


アリス関連本
Alice in Wonderland Jigsaw Book ジグソーブック
Alice's Pop-up Theatre Book しかけ絵本
Alice in Wonderland Coloring Book 塗り絵本
Alice in Wonderland Deck Book Set パズル・カードゲームのセット

ジョン・テニエルのポスター

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「エドガー・アラン・ポー詩集」(1858)より


 

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